ヴィジュアル系超絶プロテク集団「La’cryma Christi

1990年代後半に人気が爆発したヴィジュアル系ロックバンド。愛称「ラクリマ」、バンド名はフランス語で「キリストの涙」という意味である。1997年頃に放送されていたインディーズバンドを特集する「BreakOut」という番組で、「MALICE MIZER」「SHAZNA」「FANATIC CRISIS」と共にヴィジュアル系四天王の一角として名を馳せた。バンド名が「L’Arc-en-Ciel」と似ている影響で、間違えてアルバムを購入した人も多そうだが、実際にアルバムを聴くと、ハイクオリティな楽曲の数々に圧倒され、ファンになった人も多いのではないだろうか。

彼らの強みは、やはりヴィジュアル系の中で卓越した演奏技術である。妖艶なギターHIROとメロディセンスに溢れたKOJIを、Acid Black Cherryのバックバンド隊としても活躍したベースSHUSEと小柄ながら安定かつ存在感のあるドラミングを魅せるLEVIN。そして、独特な美しい高音域で歌唱するTAKAの五名で構成される。

Album「Sculpture of Time」(1997)

La’cryma Christi」の最高傑作。ヴィジュアル系史上最高クラスのの名盤だと私は思っている。中東のオリエンタリズムを感じさせる異国情緒の溢れる世界観で統一されている作品である。メロディはどこか儚さを感じる叙情的、ノアの方舟に乗って現実世界から脱却したい時に聴きたいアルバム。CDを擦り切れるほど聴いた。

PickUp.1「偏西風」(1997)

神。この曲は本当に別格。聴いてください、お願いします。「Ivory trees」(1997)のカップリング曲であるが、あまりの神曲ぶりからヴィジュアル系ファン以外にも、コアなロックファンからも支持を集めている。1997年当時シーンの頂点に君臨していた「L’Arc-en-Ciel」hyde「偏西風」を聴いて、「やばいな…俺ら喰われるで」と危機感を覚えたエピソードもあるレベル。

サビは以下の歌詞でボーカルのTAKAが歌唱する。この段階でTAKAの高音とKOJIの開放弦が浮遊感を演出していて、朧げな世界観を表現している。

「揺れるカゲロウと染まる 君を偏西風へ描きはじめ
耳をすましてたけれど 何も届きやしない」

しかし「偏西風」の最大の聴きどころは、ラストサビ後のアウトロである。

「揺れるカゲロウと染まる 君を偏西風へ描きはじめ

とまで、TAKAが歌唱を終えた後に、16ビートに乗るように、ギターの二人が対旋律とアルペジオを奏でている。ここが最高にかっこいい。サビの最後の2フレーズをギターのアルペジオに任せたのだ。僕が知る限り最もカッコいい痺れたアウトロである。

PickUp.2「Ivory Trees」(1997)

イントロのギターリフを聴いて早速鳥肌が立ちました。ラクリマの曲はイントロが攻撃的ではなく、何処か僕が憧れた90年代のノスタルジーと優しい包容力を感じる。「シルクで教会の鏡を優しく包みながら」という歌詞が、異国という未知の世界で、隣で寄り添ってくれる優しさを表現している。

PickUp.3「南国」(1997)

「赤道の音色に焦がされ
頑なに生きる青い鳥たちよ 大空に羽ばたいて」

「南国」というタイトルだと、普通ココナツや夏をイメージさせる曲を作りたくなる。でもラクリマは、明るい南国というよりは、何処か寂しげなビーチサイドの情景を意識した歌詞で、人の気配がしない神秘的な空間をイメージさせてくれる。明るいリズムギターが波の音を表現していたり、リードギターが日没気味のサンセットをイメージさせてくれたり、彼らの高い演奏力があるからこその表現力の幅を感じることができる。